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「東京eSG戦略ボード」議事録(令和3年11月29日開催)

「東京eSG戦略ボード」議事録(令和3年11月29日開催)

1 日時

令和3年(2021年)11月29日 11:00~12:15

2 場所

オンライン会議(東京都庁第一本庁舎7階 大会議室)

3 出席者

・東京都
小池 東京都知事
宮坂 東京都副知事

・ゲストスピーカー
オードリー・タン 様 (台湾デジタル担当政務委員)

・有識者
安宅 和人  様 (慶應義塾大学環境情報学部 教授/ヤフー株式会社 CSO)
河口 眞理子 様 (立教大学 特任教授/不二製油グループ本社株式会社 CEO補佐)
北野 宏明  様 (株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長、所長)
隈  研吾  様 (建築家/東京大学 特別教授・名誉教授)
小林 光   様 (東京大学先端科学技術研究センター 研究顧問)

4 議事

(1) 知事挨拶

【小池知事】

 皆さま、おはようございます。今日は東京eSG戦略ボードの開催に当たりまして、お忙しいところ、このような形でご出席、誠にありがとうございます。
 「eSGプロジェクト」ですけれども、今、世界が直面している主な2つのクライシス、危機があります。それは感染症の危機であり、それから気候変動という気候危機です。この2つの危機に対してどう臨んでいくかということが現在の問題でもあり、また、特に気候危機になりますと、今度は非常にロングタームの50年・100年を見据えた形で対応していかなければならない。それに東京のベイエリアを活用して、大きなプロジェクトをやっていこうという趣旨で、これまでもさまざまなご意見を伺い、また、示唆をいただいてきたところでございます。
 同時にその示唆は、50年・100年先を考えるならば、50年・100年前を見てみるということで、大都会である東京の礎を築いた、例えば、渋沢栄一さん、それから後藤新平さん。渋沢栄一という方は、日本の主な企業600社を作ったという、大変なビジネスの基礎、日本の経済の基礎を築いた方です。後藤新平さんは医師でありまして、台湾にも滞在し、医師であることから台湾の感染症対策にも当たってきた、そして、まちづくりなどにも貢献して、台湾でも有名な方だと思います。かつ、後藤新平さんは第7代東京市長を務めた方です。今、皇居の前にある行幸通りをはじめとして、東京の主な幹線道路というのは、関東大震災の後の復興院総裁として後藤新平さんが大変なコンセプトを持って築かれた。そういうレガシーをわれわれが引き継いでいる。
 そして、こういう先人たちの知恵をベースにしながら、参考にしながら、とは言え、今、日進月歩で世の中は進んでいるわけですね。50年・100年というのは、昔の50年・100年のスパンで考えられないくらい速いスピードで進んでいます。
 今コロナ禍で、まだまだ新しい変異株も出てくるなど、さまざまな課題を抱えていますけれども、ただコロナ前に戻るのではなくて、そしてコロナ後もサステナブルな回復をする、サステナブル・リカバリーと呼んでいますけれども、そういうことを念頭に置いたプロジェクトを東京都として立ち上げているところでございます。
 理想の未来の実現に向けましては、常に高い視座から物事を全体として捉えていく必要がある。そのために、東京eSG戦略ボードにおきまして、今日お集まりいただいているのはそうそうたる皆さんで、今回は特に台湾からオードリー・タンさんにもご出席いただいています。オードリー・タンさんは大変高名で、台湾のデジタル担当政務委員としてさまざまな分野でご活躍されていることは日本でも大変よく知られています。また、コロナウイルスの対策でもデジタルで世界をリードされました。東京都のコロナ対策サイトにもコントリビュートとしてくださったことに感謝申し上げます。ありがとうございます。それから、台湾で申し上げますと、先日、台北駐日経済文化代表処の謝代表にお越しいただきまして、マスクを寄贈していただきました。この場をお借りして改めて感謝申し上げたいと思います。
 さて、あいさつが長くなってはいけません。今日は「持続可能な都市の実現に向けた取組」というテーマで意見交換を行いたいと思いますので、タンさんをはじめ、ご出席の皆さまからさまざまなご意見をいただきたいと思います。
 タンさんは台北からということになりますし、皆さんそれぞれのオフィスから、これがまた新しいタイプの会議体かと思います。それでは、皆さま、どうぞよろしくお願いします。隈研吾さんもこの後、ご参加いただくことになっています。冒頭のごあいさつとさせていただきます。よろしくお願いします。

(2) ゲストスピーカー講演

【オードリー・タン 様】

 皆さん、聞こえますか。本日ここに参加できることを大変うれしく思います。現在、直面しているグローバルな課題に対して意見交換ができることをうれしく思います。
 台湾におきましてはデジタルソリューション、イノベーションが継続的に加速化しています。そして、コラボレーションがセクトを横断して強化されています。民主主義において社会技術を活用することが重要だと考えています。多くの人たちが協力して、共通の目的に向かって進めていくことが重要です。社会的なテクノロジーは、さまざまな機関、さまざまなセクターにおいて、政策、イノベーションの原動力になっています。政策立案において、人々のためだけではなく、協力していくということが重要です。クラウドソーシングの民主主義です。
 では、人々のためだけではなく何ができるのかということですが、答えは簡単です。市民を信頼するということです。スマートシティではなく、スマートシチズンです。持続可能な市民を信頼することが重要です。
 さて、ここからスライドをご覧にいれたいと思います。最近の努力に関してご紹介申し上げたいと思います。パンデミック、インフォデミック、サステナビリティに関する取り組みをこれからご紹介していきたいと思います。スライドは見えますか。クリエイティブコモンズと出ています。パブリックドメインと出ているはずですが、よろしいでしょうか。あるいは、アンシェアをしていただいて、私のほうでより見やすくすることができますけれども、いかがいたしましょうか。
 このほうがよろしいでしょうか。言葉が見えましたか。はい、よくなりました。
 こちらが私のオフィスです。ソーシャル・イノベーション・ラボという、台湾の台北にある私のオフィスです。もともとは日本の統治下において産業研究機関でありました。その後、壁を壊してしまいまして公園になっています。誰でもここに自由に入っていくことができ、40 分間私と会話の時間を設けることのできる場となっています。しかしながら、議事録に関してはコモンズに対して公開しなければなりません。ウェブサイトにおいて、ユーチューブチャンネルにおいて公開しなければなりません。このように徹底的に透明化することによって、ロビイストの話もあります。サステナビリティについての話、共通の利益のために、将来のために議論することを行っています。議事録は永遠に残りますので、次世代に対して利己的な主張をすれば悪く見えるということです。
 このように徹底的な透明性を担保することが重要です。社会のために活動することが重要で、台湾においてはそのような伝統があります。3つの柱があります。FAST、FAIR、FUNということが重要です。同様のキャンパスがデジタルにおいてもあります。PTT(インターネット掲示板)と呼ばれるものでありまして、台湾大学が25 年間維持してまいりました。広告はありません。株主はありません。したがって、ソーシャルメディアのような反社会的なものではなく、2019 年においてさまざまなデマが流れた際には、24 時間、PTT に関してのトリアージを行って、社会のために開催しました。
 例えば、コロナの際にも、2020年1月1日に航空旅客者の検査がすぐに行われるようになりました。すなわち、これはプレゼンボードだけではなく、誰でもトールフリーで電話を掛けることができました。ピンクのマスクがあって、男の子なのでピンクのマスクはしたくない。みんな男の子はブルーをしているということになったのですけれども、すると保健関係者はみんなピンクのマスクを付けました。そして、その少年は人気者になったということです。
 新しい規範が必要です。パンデミックを受けて非常に重要です。対策に関して公平である。例えば、マスクの配給についても同様です。g0v(ガブゼロ)という取り組みが重要でありまして、リアルタイムでマスクの配給の可視化ができるようになりました。日本の皆さんもご存じだと思いますけれども、マスクのマップを作りました。そして、最初の第1波が起きた際に、マスクマップを作った人たちがチェックインシステムを導入しました。したがって、アプリなどをダウンロードすることなく携帯電話、そしてカメラで、QRコードで確認することができます。また、トールフリーの番号で電話 をして問い合わせをすることができます。したがって、接触歴追跡に関して24 時間かかっていたものが 24 分で感染者を特定することができるようになりました。非常に厳密な接触者の追跡ができるようになりました。
 通信キャリアもSMS を持っているのですけれども、ほかの情報は別に格納されていますので、1,100万ものがアクセスできるということで、非常に公平なデータのコラボレーションができたということです。市民が貢献することができますし、QR、プリンターなども活用して実現できたということです。
 3つ目ですけれども、説得するのではなく十分な情報を提供し、市民にその理由、howの部分を理解してもらうことが重要です。政策の中身だけを理解するのではなく、こちらはソーシャルディスタンスを示しています。また、マスクを着用しなければならないということです。パンデミックにおけるコミュニケーションだけではなく、デジタルダブルを総統のオフィスで確立しまして、クリエイティブコモンズの中に確立いたしました。したがって、リミックスをしたい、その点を主張したい場合には、自由に今まであったものを活用して拡大していくことができるようになりました。
 対話についてご説明申し上げたいと思います。環境上の問題に関して非常に懸念を持っている人もいらっしゃるかと思います。公共のインフラなどでオープンソース、プレイソースのソフトウェアを活用することが重要です。可視化をするということが重要です。人がどこにいるのか、問題に対してどのように考えているのかということを把握することができます。
 例えば、2015 年のUberXのマップついてですが、同じような事実、オープンデータを把握することが重要です。マスク同様です。そして、感情に関してはクラウドソーシングをします。どのようにお互いに共鳴しているのかということを確認します。それを規制の中に反映していくことが重要です。Facebookとは違います。お互いに回答はできません。挑発などはできないということです。共鳴するか・しないか、合意か・反対かということを表明することができます。そして、合意できれば近くなる。反対であれば広がる、距離を持つということです。
 デバイスにおいて、分極化するような議論をするのではなく、お互いに合意をすることに向けて議論を進めていくことが重要です。したがって、Uberに関しまして、このようなクラウドソースでアジェンダに使うということをしまして、大きな成功につながっています。トップダウンではなく、クラウドソースの集団としてのインテリジェンス、接続したインテリジェンスで把握することができたということです。
 交通だけではなく、大気汚染についても同様のことができます。大気汚染のボックスなど配布し、理解を深めるだけでなく、政策を変えていくことができます。水の質を確認する、大気の質を確認することに関して市民も関与するということです。日本からアイデアをいただきました、マイミツという考え方です。Pokemon GOのようなチームでコインを集めたり、友だちを作ったりしながら、また、歴史も学びながら、マイボトルで水を供給することができるということで、コンピテンスのツールとして有効でありました。
 将来におきましては、50年後などを考えると、次世代はどう考えるのかということ、行為主体性として民主主義が極めて重要です。共通のインフラとして、将来の世代もやはり十分なリミックス、マッチングなどをコモンズで使うことによって、本当の意味で、世代間で使える情報にしなければならないと思います。
 では、最後に私の仕事を説明したいと思います。デジタル大臣としての私の仕事内容を表わした資料です。もののインターネットを人のインターネットに変えていこう。仮想現実を共有現実に変えていこう。機械学習を共同学習に変えていこう。ユーザー体験をヒューマン体験に変えていこう。シンギュラリティが近いというよりも、plurality、複数の可能性があることを忘れないでいましょう。
 以上です。ご清聴ありがとうございました。

【宮坂副知事】

タン様、素晴らしい講演をありがとうございました。まず、ただ今の講演を踏まえて、最初に知事から一言いただければと思います。

【小池知事】

 タン様、ありがとうございます。まさに実績に基づいたお話であり、大変説得力のあるご講演をいただき、また、さまざまインスパイアされるところがございました。3つの柱、FAST、FAIR、FUN。まさしく、どれが欠けても広がりにつながっていかない、また、国民、都民、市民に伝わっていかない。そういう意味で、FASTでFAIRでFUN、それでつなげていくということ、また、最後にシンギュラリティからpluralityというお話がございましたけれども、やはり人が中心だというお話は、まさしく今、東京が目指すところかと思います。
 オードリー・タンさんはデジタルの力でコロナを世界でいち早く押さえ込まれたということでも知られるわけですが、台湾での感染症の脅威から人々を救ったというところはまさしく敬意を表すべきところでございます。
 そういう中で言うと、東京はこの夏、感染拡大を抑えながら安全・安心な東京2020 大会も実現したところでありますし、この大きなレガシーをしっかりと次の世代へつないでいくということは、われわれの大きな責務だと考えています。
 また、「eSGプロジェクト」、先ほど言いましたが、e というのは、ecologyとかeconomyとか、environment、S が渋沢栄一で、G が後藤新平ということですが、同時にESGという、今、世界における大きな流れがありますから、それらを踏まえて、自然と便利を融合した、まさにpluralな形でまちをつくっていくことを目指しております。
 さらには、それが気候危機、感染症に負けないというサステナブルなまちをつくっていく。イノベーションで社会の構造改革などを進めていくということが非常に大きな、この時代に課せられたミッションだと考えております。
 また、50年・100年先の主役である若者たちや子どもたちの力が必要で、そのためにも民主主義が重要なのだという点を強調されておられました。また、子どもたちと一緒に未来をつくると。例えば、今、レゴブロックで未来のベイエリア、「子どもさんたち、どんなのにしたい?」と言って、彼らが主役でこの後、夢と希望にあふれたまちづくりを自らやってもらうなどいたしますと、FUNであって、またそこに夢があふれるということかと思います。
 Z世代とかアルファ(α)世代、台湾ではこういうのを何と言うのでしょうかね。新しい次世代の子どもたち、この子どもたちはデジタルが当たり前の世界で生まれて、育ってくるわけですね。今の大人とは全く違う感性を持っているということ。デジタルの力と若者の力を掛け合わせるということで、わくわくする未来を切り開けるのではないかなと考えております。
 その意味では、私はいつも大義と共感が必要だということを申し上げていて、物事には大義がないと、それは政策にはなり得ないけれども、人々の共感を得られないと、それは広がりにつながっていかない。今日おっしゃっていたことと大体つながるかなというふうに思います。小林光さん、今日ご一緒しておりますけれども、環境大臣のときに、アジアの暑い、湿気の高い、台湾もそうだと思いますけれども、そういう地域では、「ネクタイに上着のスタイルは暑いよね」と言って、クールビズを始めたときも、皆さん、涼しいから、楽だから、流行って広がったわけだから、言ってみればFUNですよね。
 そういうことで大義と共感を組み合わせるのは重要だと常々言ってまいりましたので、今日はとても力強いタンさんのお言葉を聞いて、非常に共感したところでございます。ありがとうございました。皆さんの意見をどんどん聞かせていただければと思います。宮坂さん、お願いします。

(3) 意見交換

【隈研吾 様】

 素晴らしい講演ありがとうございました。特に僕がすごく響いたのは、スマートシティに関するコメントで、スマートシティが日本で非常に話題になっているのですけれども、タンさんが言った、スマートシティではなくてスマートシチズンでなければいけないと。要するに、まずスマートなシチズンというものがちゃんと確立されれば、それから自動的に、その延長線上にスマートシティがあると。どうしてもいまだに日本はハードから入っていって、まずスマートシティを作って、その後に人間というふうな人が多いのですけれども、逆転の発想。そのためには、トラストというものが必要になるというお話、これは非常に響きました。最近、私はスマートシティの議論にいくつかアドバイザーとして参加しているのですけれども、今日のタンさんの発言は日本にとって非常に示唆的なものだと思いました。
 そのときに1つ伺いたいのは、トラストという社会のときに、もう1つは監視社会という問題があります。監視、surveillanceというものが、トラストというものと両立するかどうか。監視によってトラストが成立していると、どうしても不自然なものになってしまうおそれもある。あるいは、人間がどうしても純粋な意味でのトラストというものにならなくて、監視されているから自分たちがお互いを信用しているように振る舞っているのだというように感じさせてしまったら、そのスマートシティは冷たいものになってしまうかなと思います。その辺りの監視というものとトラストの関係についてどう考えているかを伺いたいと思いました。

【宮坂副知事】

 それでは、タン様、お願いできますでしょうか。

【オードリー・タン 様】

 もちろんです。コンタクト・トレーシング、接触者追跡というのをご紹介しましたけれども、ほかの多くの国や地域においてトレードオフがあります。例えば、ブルートゥースのようなものを使って、任意で追跡を行う。ただ、それは構成を簡単にすることができません。もう1つは、プライバシーを犠牲にして構成のしやすい監視体制を敷くということです。台湾では、安全なマルチパーティ計算を行っています。これはプライバシーを向上させるためのテクノロジーで、2つの概念を最適な形で組み合わせています。パズルのピースのように、プライバシーというのはピースとしてさまざまなところに点在しています。
 5つのテレコムキャリアが競争しているという状況の中では、リバース・エンジニアリングを、出どころをたどるために行うことは不可能です。ただ、チェックインを記録することで、誰もがその端末を使って、過去4週間の行動、接触の追跡を行うことができます。そして、どこで、なぜということまで追跡できます。それは必ずこれを使わなくてはいけないとか、ペナルティーがあるということではなく、このメソッドを自主的に選んでいるわけです。それはより速く、安全であるということを理解しているからです。
 そういう草の根的な広がりがあります。信頼のインフラというのは、プライバシーを向上させるためのテクノロジーと共存している、そして、それを明確に説明することがマストだと考えます。

【隈研吾 様】

 われわれが行ったときに感じる、台湾の社会の優しくて、癒やされるような感じというのがあります。非常に温かい感じがあって、デジタル・テクノロジーを用いて、うまく暖かさを保持していくという方向を目指されているのかなと思います。こういう方向のデジタライゼーションというものを日本でもぜひ学びたいと思いました。ありがとうございます。

【宮坂副知事】

 ありがとうございました。それでは、ほかの委員の有識者の皆さまからもコメントをいただいて、質問もあればそこでしてもらえればと思います。ただ、お時間がありますので2分くらいでまずコメントをまとめてしてもらえればと思います。名簿順に、まず安宅先生からお願いします。

【安宅和人 様】

 本当にありがとうございました。隈先生からもありましたけれども、市民を信じるというところがとてもいいなと思いました。そこの部分は、われわれはまだまだ学ばなければいけないなと思いました。その上で、知事からもありましたとおり、FUNですよね。人間、やはり楽しくないとうまくいかないのだなと。ここのところをどう設計するかというのはセンスの問題なのか、どういう人を集めるとFUNがわれわれに生まれるのかというところについて、もしご意見があればいただけたらと思ったのが1つです。
 2つ目に、最初に知事がおっしゃったとおり、台湾で行われた取り組みは驚異的に速いわけです。異常なレベルのスピードであって、世界的にも多分2桁近く速い。そのフットワークの良さというのはどうやったら生まれるのかについて、僕ら日本はとても動きが重い国なので何かご意見があればいただけるとうれしいと思います。
 最後は、おそらく台湾もほぼ似た立地だと思いますけれども、日本も災害が大変多い国家です。台風も山のように来ますし、地震も山のように来て、台湾も同じ列島というか、つながり合っているので同じ状態だと思いますけれども、ここにコロナでの経験がどのように生きるのかについて、ご意見があったらいただけるとありがたいです。以上です。

【宮坂副知事】

それでは、タン先生、お願いします。

【オードリー・タン 様】

 承知いたしました。重要な要素、楽しいということ、FUN ですけれども、やはり注意をお互いに振り向けることが重要だと思います。また、リラックスした環境が必要です。リラックスした雰囲気によって、社会性のあるものになるのです。そういうインフラが機能するということにつながります。いろいろな会話を「Join」や「PTT」などのプラットフォームがあるのですけれども、これは大学キャンパスのデジタルのプラットフォームです。大学のキャンパスというのは楽しい、それを再現しているのです。
 2016 年におきまして予算を策定する際に、デジタルコモンズに対して投資を振り向けました。インフラ予算として位置づけています。それまでは、コンクリートの橋や建物だけだったのです。それのみがインフラの予算の対象になっていたのですが、2016 年以降はデジタルコモンズもインフラだという考え方になりました。リラックスして楽しめるところ、これは物理的な公園と同じくらい意味があるのだということです。こういうところに投資をしなければ、市民は楽しめない。また、Uberなどの話がFacebookで行われてしまいます。
 ナイトクラブで音楽がガンガン鳴っている、たばこを吸っているところでは、お互いに叫ばなければ話ができないということになってしまいます。そういうところでリラックスして、楽しく、公的な問題について議論はできないと思います。これが2つ目の質問に対する答えでもあります。
 コ・クリエーション、共創という概念におきましては、分極化というのは起きないと思います。お互いに差別をし合う、あるいは怒りをぶつけるということではなく、自らのやり方を試すということになります。マップはマスクでも高齢者にとって役に立たないと思うかもしれません。でも、やってみましょうと。チャットボットを作ってみる。そして、ボイスアシスタンスを目の不自由な人に提供することができます。
 最初の1週間で100 のアプリケーションが生まれました。政府として行ったことは調達ではなく、リバース調達です。われわれがベンダーとして何が必要なのかということを、データの質も考え、プライバシーなどにも対応しながら対応したということです。人に向かっているところはソーシャル、市民のテクノロジーが中心になります。それでレジリアンスというのは高まっていくと思います。
 LINEというコミュニケーションツールを台湾でも使っているのですが、日本で大災害の際に生まれたと聞いています。壊れたコミュニケーション、インフラを使うのではなく、LINEで連絡を取り合ったということです。やはり市民を信頼することが重要です。レジリエンスが高まるのではなくて、痛みを感じている人たちはどうすればいいのかということがよく分かるからです。
 しかし、彼らに力を与えなければ、コモンズやイノベーションをreverse procurement(逆調達)で可能にしなければ、そこで動かなくなってしまいます。われわれは、とにかく規範としてソーシャルセクターのものを拡張していくということです。そして、苦しんでいる人たちを助けていくことが大事です。

【宮坂副知事】

 ありがとうございました。河口先生、話は尽きないと思うので、各委員の方から1問だけ、タンさんに何かあればお願いします。

【河口眞理子 様】

 逆に今、話を聞いていて、もっと聞きたいことが増えたのですが、私は今、立教大学でサステナビリティを教えているのですが、今のお話を伺って、特にいいなと思ったのは、internet of beings、人にとってのインターネットであるということと、タンさんは人間のヒューマニティということを信頼して、その上にデジタルを作っていくことに非常に熱心に取り組まれているなと思いました。それは大変素晴らしいと思いました。
 一方で、都市というのは人間環境なので、自然のいろいろな問題から、人間をシェルターのように別な空間を作っているというのがある意味都市だとしますと、都市にサステナビリティ、環境問題というのを考えるのは、どういう観点が必要なのかなということを感じています。大自然から切り離した、人間だけにとっての利便性の高い都市というものを、デジタルを使ってより良いものにしていくというお話があったと思いますが、逆に気候変動というのは、人間が利便性を追求した結果として、自然との間での不協和音が生み出しているとも言えます。
 そうなると、利便性の高い都市と、そうではない自然とのギャップを、じゃあデジタルはどのように使っていけるのかということでお考えをいただければと思います。よろしくお願いします。

【宮坂副知事】

 それでは、お願いします。

【オードリー・タン 様】

 バランスが重要だと考えます。特によく言っているのは、将来の世代にとって完璧でなくても構わないけれども、十分に良い先祖であるということを心がけています。将来の社会、惑星を犠牲にして 私たちが栄えるようなことがあってはならないということです。
 1つは、マイナスの外部要因に対処するという責任を果たさなければなりません。そして、公益としてより多くの人が貢献することでそこが向上されます。例えば、小学生がジョギングに行く前に両親が空気の質を測って、一緒に家族でジョギングに行く前に空気の質をチェックできる、水に関してもそうです。最初の負担は小さくても、直接友人や家族に影響を及ぼすことが可能です。それが基礎的な教育のキャリキュラムの中にこういうことを組み込んでいる理由です。
 サステナビリティを教育の中に組み込むというのは、非常に重要だと考えます。データリテラシー、データ・スチュワードシップ、データバイアスというのは、小学生、中学生にとってはあまり意味を持たないと思いますけれども、気候について測定をし始める。そして、気候の変動を察知する、検知するということをやり始めると、すぐに頭の中でピンと来るわけです。そこですぐに簡単に貢献ができるようになります。すると、サステナビリティ、デジタルトランスフォーメーションを両立させ、同時に実施、実現することができる。公益のためになるということです。
 一方で、多くの時間を費やしてディテールを話し合うことは望ましくありません。どのソリューションがほかのソリューションよりも少しいいか、悪いかということではない。そこが重要なのではありません。good enough、十分に良いということをコンセンサスとして持つ必要があります。インターネットガバナンスというコンセプトもあります。私たちが生きていく中で実験をして、検証をする。そして、データバイアスがあったときには、それを素早く是正していく。そして、多くの人に教育をしていくということが、最初から間違いを犯さないように時間を掛けてやるよりも速く、試行錯誤をしながらも間違ったら直しながらやっていくことが、十分に良いということにつながると思います。

【宮坂副知事】

 ありがとうございました。それでは、次に北野先生、お願いします。

【北野宏明 様】

 ありがとうございます。去年の4月にコロナ対策に関して1時間ほどお話をさせていただいたことがあります。またお話ができて大変光栄です。
 私の質問は、デジタル・テクノロジーを使ったサービスとか、デジタル技術の力でいろいろなことを変えることができていますし、ESG にも非常に大きなインパクトを与えられると思います。多分台湾も日本も共通して、3つの問題があると思います。1つはパンデミックで、コロナがなくなること もないですし、残念ながらこれが最後のパンデミックということでもないと思います。
 もう1つはクライメート・イシューで、例えば、エナジーの問題にしても、台湾も日本もセミコンダクター・ビジネスというのが非常に重要で、それはすごく大きなエネルギーが要求されるわけで、非常にクオリティの高い電力が要求されますし、またはバイオダイバーシティも、実際の環境が豊富でなければいけなくて、デジタルからフィジカル・リアルワールドにどうやって影響力を行使していくかというところがポイントになります。
 3つ目は、地震です。台湾も日本も同じ問題で、日本は2030 年代に南海トラフの地震が起きて、220兆円くらいの経済的なダメージが起こるだろうと予想されています。これから日本がどう復興するかというのがポイントになってくると。
 パンデミックもクライメート・イシューも地震など大規模災害も、フィジカル・リアルワールドでの話です。デジタルの力を使って、どうやって一人一人の意識を変えていくか、または、フィジカル・リアルワールドでのトランスフォーメーションをいかに速くしていくかというところがポイントになります。台湾は、今回の新型コロナによるパンデミックでの対応がすごく速かった。クライメート・チェンジもわれわれに残された時間はない。地震に関しては、日本はあと数年しか時間が残されていません。南海トラフの地震は非常に大きな地震になると思います。日本人の半分が被災すると思います。防災と復興計画を練るまであと10年ないのです。
 それだけのスピードで変えていかなければいけないようなときに、どういうことができるかということをお伺いできればと思います。また、台湾に関して、デジタルの先の、デジタルからフィジカル・リアルワールドへの変革をどうやって速く誘導していくことを考えているか、お伺いできればと思います。

【宮坂副知事】

 それでは、タン先生、お願いいたします。

【オードリー・タン 様】

 非常に広い質問をいただきました。セミナーレベルの質問です。簡単にお答えしたいと思います。Webex に市民の IoT プロジェクトについてリンクを出しました。特に地震に関しての早期警告に関して情報を提供しています。デジタルにおけるインフラで、2016 年に投資した結果です。警報の時間を短縮するだけではありません。携帯電話などで連絡を受けたり、エレベーターを止めたり、プラントを止めたりだけでなく、参加型の教育も含まれています。インパクトを理解してもらうことが重要です。それぞれのレベルで何ができるのかということに関して警報レベル別に情報を提供しています。
 パンデミックにも関係性があります。同じSMS の情報を提供しています。例えば、隔離の警告に関しても地震と同じ仕組みになっています。信頼される源泉から情報発信することが重要です。そして、訓練など、9 月21 日に全国的な防災訓練を行っています。そのようなアラートが出た際に何をすればいいのかということが分かっていて、パニックが起きません。これが極めて重要だと思います。災害が起きた際にパニックをすると、そして非生産的なことをしてしまうと、それが災害をより深刻なものにします。そこから回復することが難しいのです。
 きちんとやるべきことを理解する。お互いにコミュニケーションをしなければ、状況はさらに悪化してしまいます。コミュニケーションのインフラが、地震や津波、台風の被害を受けないということが重要です。レジリアンスが重要です。直感的に対応できる。小さな地震、パンデミックの後にもそのようなコミュニケーションのインフラで調整をして、お互いに計画をすることが重要です。詳細については時間がありませんので説明できませんので、IoT ウェブサイトをぜひご確認ください。

【宮坂副知事】

 ありがとうございました。それでは、次に小林先生、お願いできますでしょうか。

【小林光 様】

 ありがとうございます。時間の関係もありますので、繰り返しませんけれども、とても素晴らしいお話をありがとうございました。私が一番感銘を受けたのは、個人のモチベーションが大事といいますか、個人を尊重して、ボトムアップで組み立てていくというのがとても大事だというところです。
 質問は、先ほどの河口さんの質問と似ているのですが、もう少し具体的な例を教えていただきたいということです。例えば、デジタル技術が環境問題に使われる例で言いますと、例えば、今年のノーベル賞の真鍋先生の気候モデルのシミュレーション、これはいわば地球自体のデジタルツインだと思います。そのことによって、私どもは将来の世代の利益を犠牲にしないように行動するということはどうなのだということを勉強することができたと思います。
 ただ、どうしても環境問題に関する個人の動機付けということになりますと、例えば、先ほどありましたコロナから自分の体を守るという意味での健康動機、あるいは、レジ袋をやめるという、レジ袋の有料化というようなことで、これはインドネシアの女性、女の子が始めたバイバイ・プラスチックだと思うのですけれども、経済動機にも与えてやってきたと思います。環境動機というのはなかなか弱いので、私自身、先ほど小池知事のお話がありましたけれども、一緒に仕事をさせていただきまして、ずっと環境をやっているものですから、はっきり言ってCO2が減っただけで嬉しくなるという、かなり変人になってしまいました。しかし、普通の人は、環境が良くなったからすぐうれしいというわけではないと思います。
 先ほど小池知事がクールビズの話をしましたけれども、ほかに特に IT 技術を使った個人の環境モチベーションを強化した具体的な例がいくつかあれば教えていただきたいと思います。考え方は先ほど河口先生の質問に対してお答えいただいたのですが、こういう具体例が勉強になるのではないかということで、具体的な IT を使った個人の環境モチベーション強化ということで例がありましたら教えていただきたいと思います。よろしくお願いします。

【宮坂副知事】

 ありがとうございました。それでは、タン先生、お願いします。

【オードリー・タン 様】

 私にとって一番大きいのは、飛行機で出張する代わりにビデオ会議をするということです。まさに私たちが今日やっていることですね。これが一番大きいと思います。パンデミックの後、あるいは次に来るパンデミックの前ということですけれども、不必要な出張は減ると思います。お互いにこのように会ったほうが、マスクをして対面で会うよりもメリットが多いということを私たちも分かっていましたし、教育機関や政府機関においても、そのような傾向があります。
 ビデオ会議であれば、お互いの、言語以外の、例えばささいな表情の変化なども見ることができるわけです。ダウンロードだけでなく、アップロードにおいても、十分なスピードを確保すること、そして、遠隔の教育や医療に応じて法律や規制を迅速に変えていくことができれば、先ほど言ったナイトクラブの事例のように、必要なときだけ直接会うという世界になっていくと思います。
 国内あるいは国際的な飛行機での出張をデジタル・テクノロジーで置き換えて行っていくことができると思います。台湾でもそういうメリットは見られています。ですから、インセンティブ・ビルディングということよりも、デジタル空間をより良いコミュニケーションの場として提供するということだと思います。お互いにAIを、Assistive Intelligenceの略ですけれども、AIを使ってイヤホンなどを使うことなく、メタバースと言っている人もいますし、私はshared realityと言っていますけれども、そういうバーチャル空間を共有することによって飛行機での出張をなくす。そして、CO2の排出量を減らすということが1つ考えられます。

【宮坂副知事】

 ありがとうございました。それでは、安宅さんにお話しいただいて、またこの後、12時13分までお時間がありますので、各委員の方からご質問などあれば挙手いただければと思います。お願いします。

【安宅和人 様】

 ありがとうございます。2つ追加でお聞きしたいのですけれども、1つはデジタルをインフラストラクチャーにされたというのは本当に素晴らしいと思いますが、日本の場合、インフラというと土木というか、道を敷くとか、橋梁とかをやる人たち、全く違う生き物とされていて、業界の分断が普通ではないわけです。すごく大きい産業で、300~400万人の人が働いています。そっちをインフラとされてもできないじゃないか、みたいになって、結構むちゃくちゃになりがちです。北野先生と僕は国のi-Constructionの立ち上げにずっと関わってきたのですけれども、それが1つ質問です。
 2つ目は、convivialityの話が出たのですが、そのとおりだと思うのですが、デジタルを使ってconvivialというのは一体何なのかということについて、僕は大学で授業もやるのですが、やはりリアルでやったほうが圧倒的に盛り上がるわけです。楽しいというか、そういう意味で、convivialに特に人が育つ空間。仕事はこういう感じでいいのですけれども、そういうことについてわれわれが気をつけなければいけないことについて、ご示唆があればお願いいたします。

【宮坂副知事】

 それでは、タン先生、お願いします。

【オードリー・タン 様】

 ありがとうございます。日本の絵文字というのは素晴らしい発明だと思います。絵文字というのもconvivialityに関して役に立つと思います。これが生まれるのは、すなわち既にコミュニティがあることが前提で、そこに再度参加できるということです。大学はそういうところです。一人でも大学に戻れば、いろいろな話、心に響く話があるわけです。一過性の関係性ではないということです。一過性の関係性ではない、長期的な関係性が重要だと思います。それがconvivialityを長期的に実現する方法だと思います。
 だからこそ恒久性が重要です。デジタルインフラも恒久的なものにしなければなりません。共有した経験、デジタル、ソーシャル・イノベーション・ラボなどでそれを実現しています。物理的に私のオフィスに来ていただくことができますが、しかしながら、それだけでなく、shared realityにも参加いただけます。
 私は台湾のいろいろなところに行くのですが、いろいろなコミュニティの人と話をします。そこで数日間滞在します。彼らの気持ちを理解できるようにするためです。ソーシャル・イノベーションの同僚は私と一緒に来ません。しかしながら、高精度のカメラを持っていきます。360 度のカメラを持っていきます。したがって、そこに参加することができるのです。また、大きなプロジェクションに投影します。中央政府の話をする際には官僚も参加します。ですから、一緒に踊ったりもできますし、議論もできるということです。
 公務員、中央政府の官僚は、名前だけでなく、具体的な人間だということが分かるのです。1時間でも2時間でも関係性を持つことができる。そして、いろいろな議論ができる。その後は、当然のことながらEメールとか電話でのやり取りになってしまいますけれども、しかし1時間でも2時間でも、そういう対話をそれぞれの地域社会でできるということは非常にいいと思います。恒久性が生まれると思います。その後はいつでも連絡できる、いつでも訪問できる。ソーシャル・イノベーション・ラボにはいつでも来ていただくことができます。したがって、ログインをいつでもできます。そして、convivialityを楽しんでいただくことができます。
 ソーシャル・イノベーション・ラボであれ、地域社会の訪問など、これがインフラというふうに位置づけてしまうと混乱が生じるかもしれません。コモンズと呼んではどうでしょうか。インフラと呼ばないで、コミュニティのインフラ、何か区別をしたほうがいいと思います。コモンズとかコミュニティという言葉がいいと思います。日本や台湾においては、コミュニティ作りに関しては、地方の復興において重要な位置づけになっています。デジタルのコミュニティと考えがほうがいいと思います。道路や橋などに関してのインフラと区別するために大事だと思います。

【安宅和人 様】

 ありがとうございました。

【宮坂副知事】

 それでは、一通り行きましたので、委員の先生からさらに追加で伺いたいことがある方は挙手をしてもらえるとありがたいです。隈さん、どうですか。

【隈研吾 様】

 建築の話をさせていただきますと、超高層というのが20 世紀の最初にそういうタイプができて、台湾でもどんどん超高層が建っているのですけれども、これからのデジタルの時代には、超高層というのは基本的にはなくなっていくのではないかと思います。今建っている超高層はすぐ壊すわけにいかないので、ある種無用の長物をどのように使ったらいいか、タンさん流のイメージがあったら教えていただきたいと思いました。

【オードリー・タン 様】

 台湾のデジタルコモンズ内にある相当数の建物の 3Dモデルをお示ししました。また、台北101という高層ビルもあります。イマーシブリアリティ(没入型デジタル環境)のショーでもそういうモデルが使われています。台湾全体を見たいときにVR を使って台北101をVRで訪問したりします。そして、台湾全土を見回したりしています。雲を突き抜けるような高さから惑星全体を見ることができるという感じになるわけです。
 例えば、ISSで瞑想(めいそう)をする。あるいは世界中のさまざまな場所、マッターホルンなどでも瞑想することができてしまうわけです。

【隈研吾 様】

 そういう見方があるのだなと思って安心しました。ありがとうございます。

【宮坂副知事】

 ありがとうございました。とてもインスパイアな話で面白かったです。
 それでは、北野先生、河口先生から挙手いただいていますので、北野先生に行って、次に河口先生に行きたいと思います。お願いします。

【北野宏明 様】

 この前、お話をお伺いしたGovtech のところでコロナの接触アプリであるとか、マスクの位置、どこでどのくらい売っているかというのをすごく速くプロトタイプを作って、実際に使えるようにしたという話をお伺いしました。タンさんのところにダイレクトにリポートするソフトエンジニアとかアーキテクトが200~300人いて、すごくアジャイルに開発しているということで、そのやり方はすごく正しいなと思います。そこから、実運用レベルの開発フェーズになるときに、プライベート・セクターに発注する、トランスファーするという話でした。
 その人々をどうやって集めて、どういう立場で集めて維持しているかということがお伺いできればと思います。日本も今、デジタル庁ができましたし、東京都がこれからESGであるとか、新しい開発、またはデジタル化に向かって突き進んでいくときに、非常にアジャイルでテクノロジーの分かるチームが中にいるということが極めて重要だと思います。その組織をパブリック・セクターでどうやって人を集めて、維持して、ちゃんとマネージしていくかということをお伺いできればと思います。

【宮坂副知事】

 それでは、お願いします。

【オードリー・タン 様】

 (北野様の投影資料の)クレヨンシティに行ったのは初めてですが、テレプレゼンスロボットという MIT ラボで見せていただきました CityScope のチームです。CityScope のプロジェクトが MIT にありまして、非常に印象に残っています。やはり参加型のデザインです。参加型のデザイン、設計においては、誰かを採用する、参加型ワークショップにいた人をリクルートするということではないと思います。奨学生などで将来契約するために採用するということではないと思いますが、われわれがやろうとしているのは、余剰の時間を採用しようとしています。システムビルディングに関して、あるいは2時間、親切として提供される。Pol.is(台湾のデジタルプラットフォーム)の会話もそうです。Uber、さまざまに議論する際に、そのように貢献してもらう。そして、インテリジェンスをつながらせるということが重要です。ある一定期間採用するよりも有効だと思います。
 ですから、誰かの英知だけでこのようなブレークスルー、イノベーションが生まれるわけではないのです。問題、ジレンマを解決するためには一人の英知ではありません。その英知というのは、分散された人々の脳の間にあります。認知的な余剰のある人たち、トップサイドの提案、その貢献者などをリクルートして公的に採用しても駄目だと思います。それは合理性に欠けると思います。もともとの集団としてのインテリジェンス、市民社会で生まれた場所から離れてしまうと駄目だと思います。
 したがって、考え方としてはスペースメーカーであるべきです。橋である、触媒であるべき、誰かの人材、タレントプールを所有したいという思いから脱却しなければなりません。IT テクノロジーのデジタルではなく、ソーシャル技術のデジタルです。私のオフィスの共同創業者がいますが、デザインファーム、デザイン会社です。それ以前もデザインリーダーはRCA の人でした。コペンハーゲンのCIID(Copenhagen Institute of Interaction Design)の出身者です。したがって、常に公共サービスというのは参加型デザインでなければなりません。市民社会ならびに民間部門の人たち、IT 技術は協働できるということです。
 オープンスペース、技術を活用することによって、ダイナミックなファシリテーションなどの概念でデザインにフォーカスする。IT タレント、才能を公共部門で囲い込むということではないです。それが成功の鍵だと思います。IT というのは協力でありますが、共通の基準があればいいのです。社会の規範で作って、協働できるような場を提供することが大事です。

【宮坂副知事】

 ありがとうございました。それでは、河口先生、ご質問があればお願いします。

【河口眞理子 様】

 ありがとうございます。今までいろいろハードな質問があちこちから飛んでいるところ、見事に裁いておられて素晴らしいなと思いました。なさっていることは、考えますと人間の可能性を耕しているのだなと。都会における人間の可能性をいろいろな意味でデジタルを使って耕しておられて、それでいろいろな質的な向上や豊かさをもたらしていると感じました。
 私の質問ですが、都市というのは食料受給率が極めて低い。東京都では1パーセントということになっておりますし、国全体を見ても、日本も台湾も決して食料受給率は高くないです。そういう中でCOP26でもそうですけれども、今いわれているのは、ネイチャーベーストソリューションという考え方で、自然の中から使った解決策を探していこう、どうやって共存していくか、自然の恵みを生かしていくかというところに今シフトしているわけです。都市の受給率を上げる。やはり食べていかないと人は生きていけないので、そこにデジタルの力をどのように応用しようとされているのかということでお考えがあればお聞かせください。

【宮坂副知事】

 それでは、お願いします。

【オードリー・タン 様】

 これはどんどん重要性を増しています。さまざまな国で輸送費が高騰しているからです。温室効果ガスの排出量なども、以前は問題ありませんでしたが、だんだん見過ごせないレベルになっているというのがグローバルな認識ではないでしょうか。
 私はビーガンです。たまに放牧卵を食べることはありますけれども、基本的にはビーガンです。子どもの頃以来、肉は食べていません。合成肉しか私は口にしないのですけれども、本物の肉とは味が全く違うと思います。ただ、ここ数年間でめざましい進歩がありました。今は違いが分からないくらいになっています。例えば、藻を使って、あるいは大豆を使って作られているものもあるでしょうし、ほかの原料もあるのかもしれません。
 私は子どもの頃に覚えたレシピを、今、合成肉、代替肉を使って作ることができている。それこそconvivialityではないかと思っています。子どもの頃の家族の食卓と変わらないものを今食べることができている、そして、それをローカルに調達することができる。その中で使われているのがQRコードで、QRコードを使うことによって炭素の排出量だけでなく、農業的あるいは化学的な原材料についても情報を得ることができるようになっています。QR コードは日本で発明されたものですけれども、多くの家庭の食卓で原材料をチェックすることに使われています。
 おいしい、親しみのある、子ども時代から知っている食べ物と、環境に良い、そして、受給率を高くできる食べ物というトレードオフになっていると思いますが、肉の未来のためだけではなく、魚の未来のためにも、そして多くのレシピが今後も受け継がれていくように、トレードオフにならないようにテクノロジーを使っていく必要があると思います。

【河口眞理子 様】

 ありがとうございます。私は不二製油で働いておりまして、大豆肉を生産している会社としては大手ですが、今、代替のイカの生産にも踏み出しています。そういうこともお伝えしたいと思います。ありがとうございます。

【宮坂副知事】

 どうもありがとうございました。皆さまから活発な質問をいただきました。そしてタン先生にはぱっと答えていただきまして本当にありがとうございました。いろいろ議論は尽きませんけれども、そろそろ終了の時間が迫ってまいりましたので、タン先生から最後に東京都のほうに伝えたいことがあればぜひともお願いできますでしょうか。

【オードリー・タン 様】

 私はこの会話を非常に楽しませていただきました。非常に楽しむ、conviviality はデジタルコミュニケーションで可能だということが実証されました。ぜひ対面でもお目にかかりたいと思います。来年早くにでも訪問できればと思います。第3回目の接種を受けて、実は2本目の接種は日本のおかげで受けることができたのです。そして、またぜひ日本に伺いたいということです。
 東京オリンピックにも参加したいと思っておりました。大事なイベントでありまして、コロナ禍であったためにかないませんでした。しかしながら、スポーツコミュニティ、東京オリンピックで感銘を受けました。元はhigher、stronger、fasterだったのですが、東京オリンピックに関しましては、パンデミックの間に行われたデジタルイノベーションだけでなく、unicorn、strong-tech、high-techだけでなく、together という言葉が最後に加えられたということです。convivialityということだと思います。コミュニティが重要だということで、一部のアスリートだけでなく、スポーツを愛する人々全てのコミュニティが強調されました。convivialityを、ぜひデジタル、サステナブルな開発にも反映していただければと思います。
 また対面でお目にかかれることを楽しみにしています。これは不要ではなく、絶対に重要な渡航ということになりますので、どうもありがとうございました。

【宮坂副知事】

どうもありがとうございました。それでは、知事のほうから何かございましたらお願いします。

(4) 知事挨拶

【小池知事】

 オードリー・タンさんをお迎えして東京eSG戦略ボードを開催することができました。お互いにインスパイアされるところが多かったのではないかと思います。お話にもありましたように、今回タンさんの非常に速いスピードでのマスクの管理、その場所やそのほかのコロナ対策も2桁くらい速かったのではないかというコメントもございました。
 私は以前大学院でクライメート・セキュリティを教えていました。「eSGプロジェクト」は50年・100年先と言っていますけれども、例えば、3,000年・5,000年と、地球の歴史で言うと 46~47億年の話につながるのですけれども、例えば、チグリス・ユーフラテスとナイル川との文明の差は何が起きたのかというので、例えば、チグリス・ユーフラテスはダムなどを造って水をせき止める。方やナイルのほうでは洪水をむしろ生かしていくというような形で文明の発展の違いがありました。ところが、あまりハードで、チグリス・ユーフラテスのダムでせき止めてしまうと塩害などが起こってしまったことが文明を終わらせた一つの原因ともいわれています。
 逆にナイルは、ご承知のように洪水をうまく活用したということで栄華を極める時代が長かったのですが、逆に長すぎて外敵があまりいなくて、とても平和でのんびりしていて、危機意識がなくてというようなことで、その後はずっと時代が変わるのですが、イスラムが来るというような文明の歴史と自然と人類がどうやって共生するかというのは昔の文明、歴史から学ぶことが多い。そういう中で、私は1999年9月21日に台湾で台中の大地震というのがあって、そこに仮設住宅などを日本から提供するというので伺いました。当時、李登輝総統でいらっしゃいましたけれども、とにかく速いわけです。仮設住宅の建設にしても、そこをどう進めていくのか、行政的なことなどとても速かったことを覚えております。これは台湾の置かれている国際的な立場や危機意識、こういうことが全部つながってくるのではないかと思います。
 それから、今回のコロナもそうですし、気候変動もそうですし、ひとごとではなくて、マスクをするのも社会的に有効な手段でもありますけれども、そうやって一人一人が、自分が当事者なのだという意識を持つこと、それとトラストですね。これがあることによって、台湾の対策というのは危機管理の観点からも非常によく進められたなと学ぶところが多いと思ったところでございます。
 そういう意味で今日は非常に示唆に富んだお話をお聞かせいただき、また、日本側のご出席されている皆さま方の質問の中からいろいろなヒントも頂戴させていただいたところでございます。「東京ベイeSGプロジェクト」を実りあるものにしていくために、何を大切にし、何を優先していくか、今日は最後にコモンスとかコミュニティという言葉がふさわしいのではないかというお話もいただいてまいりました。これらのことをベースにしながら、サステナブル・リカバリーを50年・100年先を考えながら進めていきたいと思っております。
 タンさんとはまたぜひお会いしたいと、このような意見交換ができればと、その日が来ることを楽しみにしております。ご参加の皆さん、誠にありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

【宮坂副知事】

 ありがとうございました。今日は非常にFUNな雰囲気の会で、本当に私たちも楽しませていただきました。今後もこういうFUNな会を繰り返して、みんなの知恵を集めて、より良いまちづくりに生かしたいと思いました。それでは、以上をもちまして終了いたします。本日は本当にありがとうございました。

【小池知事】

 皆さん、ありがとうございました。


――― 了 ―――
※読みやすさを考慮し、重複した言葉づかい、明らかな言い直しなどの整理や補足説明をしています。